2016年11月9日水曜日

ミラー先生の『消費』のサンプル訳をつくってみよう (10)

つづき:

【「である」の記述と「すべき」の処方】
Description and Prescription 
本書の目的は主に2つある.1つめは,人間の文化をあるがままに記述すること.ただし,生物学的な文脈での記述だ.2つめは,人間の文化を買えて,現代技術と先史時代の社会生活の最良部分をいいところ取りしてうまく組み合わせる方法を提案すること. 
そうなると,議論が進むにつれて,本書の記述と処方がだんだん混じり合っていかざるをえない.記述と処方は,あらゆるレベルで絡み合う.大は本書の主題から,小は具体的な製品の例まで,いろんな事実や価値をとりかえひっかえ考察する過程で絡み合うことになる.そんな風に「である」と「すべき」が乱雑に混交すると,超人的なまでに合理的な科学哲学者や道徳性の哲学者たちの怒りを買いそうだ.彼らにしてみれば,行動科学者どもには客観的なルポルタージュに徹してもらって,「ああしろ,こうしろ」のお説教役はじぶんたちに――あるいは宗教的な同類たちに――残しておけと言いたくなるだろう.おいにくさま.じぶんが暮らす社会の愚行や不公正を新しい方法で記述することをとおして「どうすべきか」という新しい洞察を社会にもたらすすぐれた伝統があるんだ.この伝統につらなる人たちの名前を挙げてみよう――ジョン・ロック,メアリ・ウルストンクラフト,ダニエル・デフォー,ウィリアム・ウィルバーフォース,ヘンリー・デイヴィッド・ソロー,カール・マルクス,マックス・ウェーバー,マーガレット・サンジャー,ソースタイン・ヴェブレン,ジョン・ケネス・ガルブレイス,アルフレッド・キンゼイ,Germaine Greer,ピーター・シンガーといった人々がいる.ぼくも,こうした人たちの足跡のなかに山根の足跡のようなものを残してみたい. 
本書の記述的分析が正しければ,相反する行動指針を抱えているいろんな読者層の役に立つはずだ.マーケターたちには,消費者の好みをうまく利用してお金をもっと稼ぐ新しい方法をもたらすはずだ.一方,消費者たちには,マーケターたちの影響に抵抗してお金を節約する新しい方法をもたらす.保守派には,見せびらかしが自然界のいたるところに見つかることを踏まえて, 現状を正当化する新しい方法をもたらすかもしれない.進歩派には,特徴を見せびらかす方法として見せびらかし消費がとてつもなく効率がわるいのを踏まえて,現状を理解する新しい方法をもたらすかもしれない.ぼくには読者を選別しようがないし,本書からどんなひらめきを得てそれを生活や稼業にどう応用するかを管理できるわけでもない.ただ,人間本性と消費主義文化をもっと正確に理解することで,関連するあらゆる論点をめぐる議論がもっと知的になってくれればいいなと思う.

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