2016年10月20日木曜日

ミラー先生の『消費』のサンプル訳をつくってみよう (3)

つづき.
そこへ,ジェラールの配偶者で頭の回転が速いジゼルが割り込んできて,いくつか質問をはじめる.答えてるうちに,ますます向こうはゲンナリしだす: 
ジゼル:未来人さん,顔がよくて地位が高くて魅力的であたしのことを無視したりぶったり棄てたりしない恋人ってお金で買える?  
キミ:買えませんねえ.ああ,でもジゼルさん,そういう恋人とのめくるめく恋のつくり話だったら,恋愛小説を買って読めますよ. 
ジゼル:お金で買って,もっと姉妹を増やせない? あたしがグースベリーを採集しに行ってるあいだに,末の子供たちの面倒もまとめてみてくれるような姉とか妹とかさ.
キミ:ダメですね.雇われ子守りをやってるはたいてい稼ぎが少なくて生活に困っていて教育の足りない女の子でね.よその子供の世話なんてそっちのけで,友達とメッセージを送り合うのに夢中になるような子ばっかりですよ. 
ジゼル:うちの十代の子らはどう? ジャスティンとフィリップっていうんだけど.金で買ってあの2人にあたしを敬わせたり言うことを聞かせたり,わるい女にひっかからないように女の好みを変えたりできない?  
キミ:いえ,あなたが世間を立ち回る知恵を教えようとしても,子供たちはマーケッター連中に洗脳されて無視するでしょうし,ホリスターブランドの服を着てマウンテンデュー AMP エナジーブーストを飲み始めるでしょうね. 
ジゼル:ダボが! クソを食らって西へ飛べっての! その金とかいうの,役立たずのクズじゃない.せめて,ぜったい腐らないマンモスの死肉くらいは買えないの?  
ようやく,とっかかりが見えてきた.そこで,氷点下で食べ物を保存できる冷凍庫の解説に乗り出す――かと思ったところで我に返る.59基の原子炉を有するフランス電力なんてどこにもない時代に,冷凍庫の電気をとれるはずがない.するとにわかに口調はごにょごにょしだす. 
もういいかげんに,ジゼルもジェラールも,こっちを見る目がすっかり醒めきってる.この2人以外の人たちは,話こそ聞いていても疑い深げだ.なかには,レーザーポインタで火をおこしてこっちを炙ってやろうと隙を見てるやつらまでいる.キミは,どうにか彼らの関心を引き戻そうと,上昇意識の高いモバイル系クロマニヨン人に消費主義が提供してくれるキャンプ用品を解説しはじめる:これはサングラス,こっちはスティールナイフ,それからバックパック,そうそう,このトレイルランニング用のシューズなんて数ヶ月はもちますよ.横にあるこの「ギュン」って意匠もかっこいいし.


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