2015年3月30日月曜日

心理学教科書でアッシュの「社会的圧力」実験が正しく紹介されていないらしい

イギリス心理学会 (British Psychological Society; BPS) のブログの記事:
棒が並んだ画像を見せられ,どれが一番長いかをたずねられたとき,同じ被験者だと信じているサクラたちの答えに合わせて,被験者が明らかに間違った答えを言うというソロモン・アッシュの実験は有名だけれど,心理学教科書での紹介が誤解を誘うかたちになっているという.

同ブログが紹介しているのはフロリダ大学名誉教授のリチャード・グリッグズによる調査.
  • Griggs, R. (2015). The Disappearance of Independence in Textbook Coverage of Asch's Social Pressure Experiments Teaching of Psychology, 42 (2), 137-142 DOI: 10.1177/0098628315569939 

もとの実験では,被験者の応答のうち,63.2% は多数派に合わせず見たままを答えたのに対して,36.8% が多数派(サクラ)の間違った答えに合わせた.一貫して多数派に逆らった人は 25%,一貫して多数派に順応した人は 5% で,少なくとも1回は多数派に逆らった正解を答えた人が 95% にのぼる.つまり,社会的圧力に順応したのはけっして多くない.

グリッグズによる上記論文のアブストラクト:
Asch’s classic social pressure experiments are discussed in almost all introductory and social psychology textbooks. However, the results of these experiments have been shown to be misrepresented in textbooks. An analysis of textbooks from 1953 to 1984 revealed that although most of the responses on critical trials were independent correct ones, textbooks have increasingly over time emphasized the minority conformity responding and deemphasized the majority independent responding. An analysis of 20 introductory psychology textbooks and 10 introductory social psychology textbooks revealed that this distorted coverage has not only persisted but increased over the past 30 years. Given the entrenchment of such coverage in current texts, a suggestion for how to address this distorted coverage without major text revision is provided.
アッシュによる古典的社会的圧力実験は社会心理学の入門教科書のほぼすべてで取り扱われている.だが,実験結果が教科書で誤ったかたちで紹介されていることが明らかになっている.1953年から1984年までの教科書を分析したところ,決定的な試行でなされた反応の大半は独立した正解だったにも関わらず,時が下るにつれて,教科書では少数派の同調が強調されるとともに多数派の独立した反応が軽視されるようになっている.入門的な心理学教科書20冊と入門的な社会心理学教科書10冊を分析したところ,このように歪曲した紹介はたんに継続しているだけでなく,過去30年間で増加していることが明らかになった.こうした紹介が現行のテキストで定着していることを踏まえ,本文を大幅に書き直さずにこの歪曲に対応する方法を本稿では提案する.

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