2014年6月21日土曜日

「ナイキはウェアラブルのタオルを投げ込もうとしてる」――イディオムが修飾される例

ずいぶん前のことだけど,日頃,ヒマなときによく見てる The Verge の動画で,こんな表現がでてきた:
"It looks like Nike is throwing in the wearable towel.
Hit the shower of fuel, then. "
直訳すると,こんな日本語になってしまう:
ナイキは着用可能なタオルを投げているように見える.
なら,燃料のシャワーを浴びなさい.
ちなみにグーグル翻訳せんせいはこんな訳を返す:
ナイキはウェアラブルタオルで投げているように見えます。
その後、燃料のシャワーをヒット。


――でも,もちろん,言わんとしてるのはそういうことじゃあない(というか,これだとなんのことだか意味不明だ).

この2文を理解するには,次の2点をおさえなくちゃいけない.


一つ目は,文脈.これは,スポーツ用品メーカーのナイキが,FUEL Band の開発をやめてウェアラブル端末から撤退するという噂を伝えるニュースだ.だから,ここで言う wearable は「ウェアラブル端末の~」くらいの修飾を意味してるし,2文目の fuel は FUEL Band にひっかけていると解釈しなくちゃいけない.

二つ目は,イディオムの意味.どちらの文も,こんなイディオムを核にしてる:
  • throw in the towel: 「(くだけた言い方)敗北を認めて試みるのをやめること」("(informal) to admit that you have been defeated and stop trying," OALD)
  • hit the shower: 誰かに出て行ってほしいときに使う表現.試合後にコーチが選手たちに「シャワーを浴びてこい」('hit the showers') と言うことから派生.("A term used when you want someone to leave. Derived from a coach telling his players to 'hit the showers' after the game.," Urban Dictionary)
以上をふまえると,冒頭に引用した箇所はこういうことを言ってるんだとわかる:
ナイキはウェアラブル端末をあきらめようとしてるらしい.
なら,FUEL もやめるがいいさ.
ここでおもしろいのは,イディオムと修飾・限定の関係だ.なぜかって言うと,イディオムを定義する特徴は,それを構成してる単語の意味と統語構造からイディオム全体の意味が得られないことにあるからだ.ところが,ここでは wearable, fuel がイディオムの意味をさらに修飾・限定している.

まず,1つ目の文では,イディオムの一部をなしてる towel を wearable が修飾してる構造になってる:

  • throw in the wearable towel

次に,2つめの文では,同じくイディオムの一部をなす the shower を前置詞句 of fuel が限定してる:

  • hit the shower of fuel 

さらに,wearable も fuel も,ここでは通常の意味ではなくて「ウェアラブル端末」「FUEL Band」に関連する意味で使われている.

厳密には構成性が成り立っていなくても,なんとなくイディオムが修飾・限定されてフレーズ全体の意味が得られているわけで,意味に関わる現象としてとてもおもしろい.この観察じたいはべつに新しいわけじゃないけど,たまたまそういう事例にでくわしたので,忘れないようにメモってみた.








1 件のコメント:

  1. でも,もちろん,言わんとしてるのはそういうことじゃあない(というか,これだとなんのことだか意味不明だ). この2文を理解するには,次の2点をおさえなくちゃいけない. 一つ目は,文脈.これは,スポーツ用品メーカーのナイキが,FUEL Band ... ナイキ.blogspot.com

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