2016年5月30日月曜日

「ジェンダーと科学の科学:ピンカーとスペルクの対論」(13)

ピンカーとスペルクの議論をちまちまと訳しています.いまはピンカーによるプレゼンの途中.(前回分はこちら

以下,訳文:




第九,性ホルモンの変動.このスライドは飛ばし気味にやります.というのも,研究文献がちょっと散らかってる状況だからです.ホルモンが認知におよぼす影響について主張されていることがすべてデタラメ,インチキだと判明する可能性はありますが,このいささか矛盾を含む研究文献の蓄積からすくい上げられるものはあるだろうと思います.ともあれ,男性にみられる低水準から正常水準のテストステロン水準がより高い空間操作能力と結びついていることを示す研究は多数あります.また,エストロゲンを比較したり操作したりした研究もさまざまあり,そうした研究では,なるほど論争中ではあるものの,月経周期における女性の認知で得意なことと不得意なことの統計的な変化を支持する証拠はあります.おそらく,この変化はテストステロンの日々のサイクルや季節のサイクルで男性のさまざまな能力に変化が起こることと対応しています.
最後の証拠はこれです:刷り込み X 染色体.過去15年に,性差を実現しうる完全に個別の遺伝的システムが発見されています.David Haig らが研究している「遺伝的刷り込み」(genetic imprinting)という現象では,母親に由来するのか父親から由来するのかによってX染色体のような染色体が変化することが可能です.これは,ターナー症候群という症状にちがいをもたらします.ターナー症候群では,子供〔女の子〕が1つしか X染色体をもっていないのですが,母親からもらうことも父親からもらうことも可能です.この子供が女の子に特有の X を受け継ぐと,平均でみて,語彙にすぐれ,対人スキルに長けており,また,感情を読み取ること,ボディランゲージを読み取ること,表情を読み取ることがよりうまくできるようになります.

ステレオタイプについて一言述べて,しめくくります.

いままで述べてきたことは,ステレオタイプでしょうか? 「イエス」です.以上述べたことの多くはステレオタイプです(言い添えますと,全部がそうだというのではありません――たとえば,女性の法が空間記憶に長けていることや数学の計算に優れていることはステレオタイプではありませんね).どうも,こういう想定が広まっているようです――「ある性差がステレオタイプに合致するなら,その性差はステレオタイプによって引き起こされたのにちがいない.つまり,男の子と女の子それぞれに対して向けられる期待が異なることから生じているにちがいない」というのが,その想定です.しかし,もちろん,因果関係の矢印は,どっち方向にも向きえます.それどころか,認知心理学には大量の研究文献があり,これによれば,〔「いろんなやつがいるけど《ネコ》っていうのはこういうのだぞ」「《菓子パン》はだいたいこういうやつだ」といった具合に〕さまざまな範疇を形成するとき,人々はすぐれた直観的統計学者になれるそうです.さまざまな概念範疇の典型(プロトタイプ)は,自然界の統計をかなり上手に追跡するのです.たとえば,バスケットボール選手は競馬騎手よりも背が高いというステレオタイプがありますよね.でも,だからといって,「バスケ選手なら,競馬騎手ならこれくらいの身長だろう」という期待が向けられているからバスケットボール選手の身長がすくすくと伸び,競馬騎手が縮むわけではありませんよね.同様に,Alice Eagly と Jussim & Eccles の研究により,大半の人たちが抱いている性別ステレオタイプは実のところかなり正確だとわかっています.それどころか,人々がおかすエラーは,性差の過小予測の方向なんです.

――今回はこれだけ.おそらくあと1回でピンカーのパートはおしまいにできるはず.

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